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勿忘草~戯曲集~

勿忘草~戯曲集~

序章~1・動因~2・構築

  午後2時 とある日の会社受付にて
  男が一人受付で誰かを呼び出している
  受付の女性がそれを受け、電話で所在を確認する
  男は受付嬢から何事か告げられ、ロビーのソファーに座る
  しばらくすると、男が受付にやってくる
  受付嬢はソファに座る男の方を手で指しながら導く

  ソファに座っている男 片山伸吾(以後・片山) 30歳 スーツを着てビジネスバックを持っている
  今、ロビーにやってきた男 新谷健介(以後・健介) 38歳 スーツだがネクタイはしていない ちなみにこのストーリーの主人公
  受付嬢 25歳 名前はとりあえずここでは不要なので述べず。

  健介 片山に話しかける


健介 新谷ですが・・・。
片山 あ、お忙しいところ申し訳ございません。


  片山 そう言いながら立ち上がる
  片山 名刺を取り出す


片山 はじめまして、PSR研究所から参りました片山です。


健介 PSR?
片山 ええ、Program of Stress Relieving。主にストレスの原因の追求とその解消を目的とした研究を行っております。
健介 ストレス・・・。
片山 ええ。
健介 で?何故、そのナントカ研究所の方が私に?
片山 私どもPSR研究所では幾つかの企業様と契約を頂いておりまして、御社とも契約を頂いております。
健介 はあ・・・。
片山 まだ訳わからないですよね。そんな顔してます。
健介 ええ、まあ・・・。それで、一体?
片山 まずはこちらの資料をご覧下さい。


  片山 そう言いながらバックからパンフレットを取り出す


片山 人間の心というモノは様々な状況から影響を受けます。その状況が自分が・・・この場合、自分と言うのは深層心理に於いての願望も含みます・・まあ、その自分が望んだモノである場合、心はうれしい、楽しいと言うような感情表現へと変化させ、又、自分が望んでいないモノの場合、悲しいとか悔しいという表現になります。ここまでは分かりますか?
健介 ええ、なんとなく。
片山 ありがとうございます、結構です。つまり、この心の望まない現実が及ぼす身体への影響・・・コレをストレスと呼びます。
健介 ええ。
片山 私どもはこのストレスをより効果的に解消する為のプログラムを・・・まあ、言わば販売している訳です。
健介 はあ・・・。
片山 すいません。私一人でべらべらと喋ってしまいまして・・・。
健介 いえ・・で、それが私とどういう関係が?
片山 先月、健康診断をお受けになりましたよね?
健介 先月?


  健介 少し考えて


健介 ええ、会社で。
片山 そのときのあなたの結果がコレです。
健介 え?
片山 私どもは健康診断の実施とこのストレス解消プログラムをセットにして行っているのです。
健介 それで・・・結局、何故私の処へ?
片山 私どものプログラムはストレスが身体もしくは、会社の業務へと影響を与えると判断された場合にですね、会員様にお薦めしている訳です。
健介 でも・・・そんな話、会社からは一切されてませんよ。
片山 ええ、ストレスの原因の所在が、会社での業務、又は人間関係等にある場合も考えられますので、このプログラムを受けているコトが他の方の・・・この場合会社の方のですね、耳に入らない様に一般の会員様への説明は、私どもにお任せ頂いており、プログラムにおいて、その効能が認められなかった場合にのみ、会社の方へ通達するという仕組みになっております。
健介 ・・というコトは、つまり私がストレスを抱えてると?
片山 ご理解が早く、助かります。
健介 自分では気付きませんでしたが・・・。
片山 まあ、最近では多かれ少なかれ、皆さんストレスを抱えてますからね。
健介 じゃあ何故私にだけ?
片山 それは、人それぞれストレスの感じ方には個人差がありますので。所謂、神経が図太いなんて言われてる方々には私たちは必要ないでしょうね。
健介 私はストレスを感じやすいと・・・?実感ありませんが。
片山 実感が伴う方はご自分で、なんとかそのストレスを解消しようと普段からプライベートを充実させたりと気にされるんですよ。
健介 というコトは私はストレスを感じやすいが、それを感じ難いということですか・・・それって矛盾してませんか?
片山 まあ、そのように感じるかもしれませんが、それ程特別なことではありませんよ。
健介 そうなんですか?
片山 ええ。どちらも自己防衛の為の本能なんです、ストレスを実感として認識出来ることも、出来ないことも。・・・つまり認識し、解消するための手段を講じストレスを消すのか、その存在そのものを認めず、無いものとするのかの違いです。
健介 なるほど・・・。
片山 ま、どちらが良いとか悪いというモノではありませんので気になさらなくて結構ですよ。
健介 ただ、自分で解消できるのであれば、それが良いですよね。
片山 そうですね。ただ私たちは、その方法を持たない方々のお手伝いをすることですので、みんながみんな自分でストレスを解消できたら必要の無いモノになってしまいますけどね。
健介 ですね・・・で、具体的にはどんなコトを?
片山 それでは、全てをここで説明するのはムズカシイので一部を説明させて頂きます。



  その後のオフィス
  健介 パンフレットの入っている封筒を片手に戻ってくる
  オフィスには健介を含め4人
  健介の左隣の席に男 同僚A(以後・同A)
  同じく向かい側に女 同僚B(以後・同B)
  同じく左斜め前に男 同僚C(以後・同C)

  健介 パンフレットを机の上に投げ出し席につく
  それを見て 同A声をかける


同A 誰だったんですか?
健介 あ?
同A 客。
健介 ああ・・・。
同A どうしたんですか?
健介 お前さあ、PSR研究所って聞いたことあるか?
同A ありますよ、当たり前じゃないですか!
健介 え?あるの?
同A プレイステーションポータブルでしょ?みんな知ってますよ。


  健介 うなだれる


健介 それ、PSPだろ?違うよPSR!
同A ・・・プレイステーションレボリューション?
健介 プレステから離れろ!・・・レボリューションって!?
同A 2、3と来たじゃないですか?だから次はレボリューション。
健介 へーそうなんだ。
同A いえ、想像ですよ、俺の。
健介 無いの?
同A ええ、今のところは。
健介 何だよ、適当かよ。
同A で、誰だったんですか?
健介 あ?
同A だから、客。
健介 だから!PSR。
同A 何ですか?それ。


  健介 片山の言葉を思い出す


片山 ストレスの原因の所在が、会社での業務、又は人間関係等にあった場合、その事を同僚の方に知られてしまうと、仕事し難くありませんか?


  健介 我に返り


健介 いや、なんか営業だよ。
同A 何の?
健介 なんだろ、通信教育?カルチャースクール?
同A わざわざ、会社まで?
健介 あ?ああ、資格取ったりするからだろ?
同A 何で、新谷さんのトコにだけ?
健介 さあ?優秀だから?
同A じゃあ、俺のトコにも明日あたり来るのかな?
健介 いや、来ないな。
同A どうしてですか?


  健介 プログラムのコトを考えていて、つい本音をしゃべってしまう


健介 だって悩みなんてなさそうじゃん。
同A 悩みがないと来ないの?
健介 そりゃそうだろ?だって・・・


  健介 口にしてしまったコトを取り戻さないといけないと思い直し


健介 ほ、ほら、現状の仕事振りに納得がいかないから資格でもとろうかな?と思える訳で、おまえみたいに悩みが無ければ、資格取る必要も無いじゃん。
同A 馬鹿にされてます?俺、今。
健介 いや、尊敬してるんだよ。
同A 尊敬?
健介 ああ、俺は細かいトコまで気にしすぎる傾向にあるから・・・。
同A うん・・・それは確かに・・・。
健介 そうか?
同A え?
健介 そんなに、俺、細かいトコ気にしてるか?
同A ええ・・・まあ。
健介 たとえば?
同A たとえば・・・えっと・・・あ!新谷さんて結構、神経質だよね?


  同僚A 同僚Bに話題を振る


同B 新谷さん・・・ですか?
同A ああ。
同B まあ・・・そうですね。
健介 例えば?
同B 例えば・・・そうですねえ・・・あ!新谷さんって細かいトコまでうるさいよねぇ?


  同僚B 同僚Cに話題を振る


同C 新谷さんが?
同B そう。
健介 何か形容が酷くなってる気が・・・。
同C ああ、間違いないな。
健介 間違いないのかよ!で、例えば?
同C 例えようはないですね。
健介 例えられないのかよ。そんなに酷いの?俺。


  同僚3人 うなずく
  健介 頭を抱える


同A 冗談ですよ。なかなか良いコンビネーションだったでしょ?
健介 いや、もう立ち直れないかも、俺。


  同A 落ち込んでる健介を見遣り


同A そういうトコですよ。
健介 え?
同A まあ、こういう冗談を間に受ける辺りが神経質かな?って。
健介 ・・・それって神経質って言うのか?
同A ・・・うーん・・・。
健介 考えるなよ!
同A とにかく、そういうコトですよ。
健介 無理矢理まとめたな。
同A まあ、考えすぎるのは良くないですよ。
健介 お前等が考えさせたんだろ!?
同A そういうのをですね、さらっと流していかないとキツイですよ。
健介 やっぱりそうか?
同A ええ。
同B そうですよ、考えすぎは良くないですよ。ほら、最近痩せたみたいだし・・・。
健介 痩せた?俺が?
同B ええ、少し・・・ねえ?


  同僚B 同僚Cに話題を振る


同C ええ、頬が少しこけたかなあっと・・・なあ?


  同僚C 同僚Aに話題を振る


同A ええ、ガリガリです。
健介 そんなに!?


  同僚3人 うなずく
  健介 頭を抱える


健介 そっか、俺痩せたか・・・ガリガリか・・・やっぱりストレス溜め込んでるのかなあ・・・。
同A ストレス溜まってるんですか?
健介 あまり自覚症状はないんだけどね。
同A ストレスなんて、速攻で発散させないと駄目ですよ。
健介 お前は、どうやってるの?
同A 俺ですか?俺はバッティングセンター!
健介 バッティングセンター?


  同A 素振りをしながら


同A ええ。俺、中・高と野球部だったんですよ。その名残で今でも130kのストレートをジャストミートさせた日にゃあ、ストレスなんてボールと一緒に飛んでっちゃいますよ。
健介 駄目だ。俺、運動からきし駄目なんだ。
同A じゃあピッチングは?
健介 筋肉馬鹿。君は?


  健介 同僚Bに話かける


同B 私は、休みの日にスウィーツを食べまくってます。
健介 それで発散できるの?
同B ええ。
健介 そっか・・・でも俺、甘いモノ苦手なんだよなあ・・・。
同C 俺は、ですねえ・・・
健介 あ、お前はいい。
同C 何でですかぁ!
健介 何ででも、お前のは言わなくていい。
同C 何でですか!俺のストレス解消法だって凄いですよ!
健介 ああ、ああ、そりゃ凄いだろうよ。
同C 俺はまじめに言ってるんです!
健介 どうせあれだろ?AKB48のライブに行くとか言うんだろ?
同C ・・・


  健介、同僚A、同僚B 声を揃え


3人 図星かよ!
同C 駄目ですか!?私がアイドルを追っかけるのは駄目ですか!?


  3人うなずく


同C 何ですか!?気持ち悪いとでも言うのですか!?


  3人うなずく
  同僚C 泣き崩れる


同A あれだろ?あの歌に合わせて踊るあのヲタ芸とかやればストレスなんて溜まらないって言うんだろ?
健介 凄いよな、あれ。
同C でしょ?


  同僚C うれしそうに健三を見る


健介 ま、まあ・・・。
同C 一回やってみませんか!一緒に!
健介 いや、いい。
同C なんで!?
健介 だって俺、誰が誰かも分からないし。
同C 大丈夫です。
健介 え?
同C そのうち分かります。
健介 その内って・・・。で、あれだろ?周りの人たちのコアな会話についていけずに疎外感を味わう羽目になるんだろ?余計ストレス溜まりそう・・・。
同C 大丈夫です。
健介 え?
同C そのうち慣れます。
健介 慣れたくない。
同A 興味ありそうですね。
健三 まあ・・・なくはない。
同A そうなんですか!?
健介 じゃあ、お前は興味ないのか?
同A なくは・・・ない。
健介 だろ?でもなあ、あの踊ったり歌ったりってのは違うんだよなあ。
同A ですよねえ。
健介 ああ。
同C そういった羞恥心がですねえ、ストレスの原因になるんですよ!
健介 いや、だからやりたくないんだって。
同C そう思ってるだけです。
健介 は?
同C 深層心理ではきっとやりたいっておもってるんです。でも羞恥心が邪魔してそれが出来ない。さあ!解き放つのです!今こそ、その鎖を打ち破り自由の世界へと!
健介 どこの宗教の人
同A さあ・・・?


  同僚A 同僚Bの視線に気付く


同A あの~ものすご~く冷たい視線で僕たちを見てる人がいるんですけど・・・。


  健介 同僚Bの視線に気付く


健介 誤解だよ、誤解。
同B 新谷さんの好きなことを思いっきりやればいいんですよ。
健介 好きなこと?
同B そう。
健介 好きなコト・・・・。
同B 無いんですか?
健介 なんだろなあ・・・。
同B 趣味とかは?
健介 趣味ねぇ・・・。
同A 休みの日は何してるんですか?
健介 寝てるかなあ・・・大体。
同A よく、それで奥さん何も言いませんね。
健三 俺が仕事休みの日は、カミさんも家事休みの日なんだ。
同A え?
健介 だから、2人して何もしないの。まあ、一緒に飯食いに行ったりはするけど・・・。最初の頃は、行ってたんだよ。温泉とか遊園地とか。でもなあ・・・1日か2日で行けるトコは大体行っちゃったしさあ、何より面倒臭くなっちゃって・・・。
同A そんなんで、どうやってストレス解消してるんですか!?
健介 だから、それを探してるんじゃないかよ!
同A でしたね・・・。
同C でも、何か探した方がいいですよ。ストレスって言っても馬鹿に出来ませんから。結構あるんですよ、ストレスが原因の病気って。


  同僚3人 心配そうにうなずく


健介 いや、分かってるんだけどね・・・。


  健介 時計を見ると、大分話し込んでいたことに気付く


健介 ま、それはそれとして仕事しよ。


  同僚3人 時計を見て


同A あ、そうだ今、忙しかったんだった!やばい、残業になっちまう・・・。


  4人 仕事に戻る



  健介 妻と二人ダイニングでワインを飲んでいる


妻  ストレス解消法?
健介 そう。どうやって解消してる?
妻  まあ、あんまりストレス溜まらないしなぁ・・・。
健介 でもさ、毎日毎日、家事ばかりしてたら「うわーっ!!」ってなること無いの?
妻  無い訳じゃないけど・・・。
健介 だから、そう言うときはどうするの?
妻  スポーツクラブで泳いだり?走ったり?
健介 そんなトコ行ってたの?
妻  ええ、結構暇なのよ、昼間。子供もいないし。で、何もしないと太っちゃうでしょ?だから。


  健介 うなずきながら話を聞いている


健介 言ってくれよ。全然知らなかったよ。
妻  だってさ・・・どうせ、行かないでしょ?そういうトコ。
健介 まあな。身体動かすの好きじゃないしな。
妻  でしょ?それに・・・恥ずかしいじゃない?頑張って体型維持してるってバレたら・・・。


  健介 返答に困りグラスのワインを飲み干す
  妻 それを見てほほえみながら、ワインをグラスに注ぐ


妻  でも、急にどうしたの?
健介 いや、今日会社にこんな奴が来て・・・。


  健介 そう言うと封筒に入ったパンフレットを取り出し、妻に見せる


妻  何?コレ。
健介 よく分かんないんだけどさあ・・・何か俺ってストレスを溜めやすいんだってさ。
妻  そうなの?
健介 何か、みんなに聞いたら好きなことしてたらストレスなんて忘れるって言うじゃない?
妻  まあ・・・そうね。
健介 で、俺の好きなコトって何だ?
妻  そんなの自分で分かるでしょ?
健介 分かんないから聞いてるんです。もうずっと一緒に居るんだから分かるだろ?
妻  私。
健介 は?
妻  だから、好きなモノでしょ?わたし。
健介 もう、そういうんじゃなくてさあ。
妻  私のコト好きじゃないの!?
健介 だから、コト。好きなモノじゃなくて、好きなコト!
妻  同じでしょ?
健介 全く違うよ。
妻  でも、私、スポーツクラブ、別に好きじゃないよ。
健介 え?じゃあ何で行ってるんだよ。
妻  スカッとするから。
健介 好きじゃないのに?
妻  好きじゃなくても、別に嫌いじゃないし。
健介 そういうもん?
妻  そういうもん。あなたもないの?スカッとすること。
健介 スカッとか・・・歯磨いた後とか?
妻  それはスカッていうかスッキリじゃないの?
健介 違うの!?スカッとスッキリって?
妻  違うでしょ。
健介 違うか?
妻  違うよ。
健介 そっか・・・違うのか・・・。じゃあ、何だ?・・・アレの後か?
妻  スカッなの?
健介 違うの?
妻  男と女じゃ違うって言うでしょ?
健介 じゃあ、分からないか・・・。
妻  でも、見てると、スカッって言うかバタッて感じだよ。
健介 それはなあ、確かにバタッではあるんだけども・・・。何か違うんだよなあ・・・・そうそう、こうやって掌に載せてるヒヨコをただ見てるような・・・。


  健介 そう言いながら目の前に差し出した掌を見る


妻  それは何?どんな状況?
健介 あ~じゃあ、ヒヨコじゃなくてもいいや。生まれて2週間くらいの子猫でも。
妻  動物変えると何か変わるの?
健介 お前が分り易いようにだろ!?
妻  何それ。私は子猫なの?
健介 違うよ。なんて言うかなあ・・・こう、無条件の愛を捧げられる対象というか・・・。
妻  へ~


  妻 からかうように健介を見る


健介 何だよ、例えだよ。例え話。
妻  私って愛されてるんだ。
健介 ちょっと酔ったかも。
妻  酔ったときの方が本音でしゃべれるって言うよ。
健介 あ~そうかもな。
妻  で?このPSRってどんなコトするの?
健介 興味あるの?
妻  だって、困るでしょ?
健介 何で困るんだよ。
妻  困るでしょ。あなたがストレスで胃に穴とか空いちゃったら。誰が、こうやって私の晩酌の相手をするの?
健介 そこかよ。
妻  楽しくないでしょ?私がフォアグラのソテーを食べてる前でお粥とか食べていられても。
健介 ちょっとはあわせようよ。何その格差?
妻  何で、病気でもない私が、お粥を食べなきゃならないの?
健介 まあ、そうなんだけどもさ・・・


  妻 それを見て
  
  
妻  で、どんななの?
健介 うん、それがね・・・


  健介 片山の話を思い出す
  場面は会社受付へ


片山 我が研究所ではですね・・・
健介 はい。
片山 人間の願望をヴァーチャルの世界で具現化させるシステムを開発したのです。
健介 願望を具現化?
片山 こうなりたい、とかああしたいって言う願いが叶うんです。
健介 う~ん・・・。
片山 えっと例えば・・・そうですね・・・例えば、あそこの受付の女性・・・どう思われますか?
健介 どう思うと言われますと?
片山 魅力的だと思いませんか?
健介 え?ええ、まあ・・・。
片山 あの女性がある日突然来るんですよ・・・。


  受付嬢が健介に近寄ってくる
  同時に片山 端の方に移動する
  

片山 で、彼女はこう言うんです・・・・。

受付 あの~新谷さん。
健介 ん?
受付 今日、仕事終わった後、何かあります?
健介 何か?
受付 はい、誰かと約束とか・・・。
健介 約束?約束はないけど・・・。
受付 じゃあ、ちょっと私に付き合って貰えませんか?
健介 え?夜ってこと?
受付 ええ。
健介 それって、遅くなる?
受付 え?ええ、まあ・・・。
健介 じゃあ、無理かなぁ。カミさん待ってるし。
受付 え?


  片山 話に割り込む
  同時に受付嬢 元の位置に戻る
  
  
片山 そうなります?
健介 え?
片山 えっと、彼女の誘いに乗りませんか?普通。
健介 いや、結婚してるので。
片山 結婚してても。
健介 しないんじゃないですか?それにうちのカミさんと晩飯を食べて酒を飲むという約束がありますので。
片山 あ~そうだったんですね。じゃあ仕方ないですね。では今度は、今日じゃなくて、明日という設定で・・・


  受付嬢が健介に近寄ってくる
  同時に片山 端に移動する
  

受付 あの~新谷さん。
健介 あ~今日も駄目だよ。約束あるから。


  片山 話に割り込む
  同時に受付嬢 元の位置に戻る
  

片山 え~!!明日もですか~!?
健介 ええ。
片山 明後日は?
健介 駄目です。
片山 昨日は?
健介 駄目です。
片山 一昨日は?
健介 だから駄目ですって!日課なんです。一緒に晩飯くらいは一緒に食べて、好きなお酒の相手をするって言うのが!
片山 それは、一日くらい休めないんですか?
健介 無理でしょうねぇ~。
片山 もし、休むと?
健介 もし、休むと・・・例えば、JRが一日休んだとするじゃないですか。
片山 JR?
健介 ええ。一日、電車が走らないんです。山手線も東海道線も北陸本線も鹿児島本線も全部走らないんです。
片山 それは・・・大変なコトになるでしょうねぇ。
健介 でしょ?そういう感じです。
片山 分かったような、分からないような・・・。


  そう言いながら片山 立ち去る
  妻 立ち上がり
  

妻  偉い!
健介 そうか?
妻  これからは、あなたのコト信用することにするわ。
健介 今までは?
妻  ・・・過去にとらわれては駄目。大切なのは明日、未来よ。
健介 そ、そうだね・・・。
妻  でも、結局よく分からないんだけど、どうやって、ストレスを解消するのかが。
健介 まあ、分り易く言うと、なんでも願いが叶うんだってさ。
妻  何でも!?
健介 らしいよ。
妻  じゃあじゃあ、宝くじで3億円当たるとかは?
健介 大丈夫なんじゃない?
妻  じゃあ、キムタクと結婚するとかは?
健介 キムタク結婚してるじゃねえかよ。
妻  そこは、静香と別れて。
健介 おまえも結婚してるじゃねえかよ!
妻  あなた・・・別れて。
健介 何だよ、それ。10年も一緒にいて一瞬かよ。
妻  ごめんなさい、私、恋に生きることに決めたの。
健介 あのさ、でも現実じゃないよ。
妻  え?
健介 夢。
妻  ええ?
健介 要は自分の見たい夢をみるの。
妻  あなた・・・やっぱり私、あなたがいなくちゃ生きていけない。
健介 遅ぇーよ!
妻  あなた~私、別れたくない。
健介 いつまで続くんだ?この小芝居。
妻  やってみたら?
健介 何を?
妻  その・・・PSR?
健介 でもなあ・・・。
妻  何?
健介 結構、掛かるんだよ。
妻  お金?
健介 ああ。
妻  どれ?


  妻 そう言うとカタログを開く


妻  ん~・・・いいんじゃない?この位なら。
健介 え?
妻  ボーナス1回分全部コレにあてれば、足りるじゃない。
健介 でも、今年は休み取って海外に行こうって・・・。
妻  旅行って言ったって、まだ何処に行くかも決めてないし、別に。
健介 でもさ・・・。
妻  だって、健康診断で引っ掛かったから、この話が来たんでしょ?
健介 そうだけど・・・。
妻  別に旅行なんていつでも行けるし。
健介 う~ん。


  健介 考える


健介 じゃあ、そうしようかな。
妻  うん、頑張って。・・・ん?別に頑張る必要はないのか・・・。
健介 まあ、夢見るだけだし。
妻  そうね。
健介 でも・・・。
妻  何?
健介 俺・・・何の夢見れば良いんだ?
妻  じゃあ、今夜はゆっくりそれについて話し合いましょ。


  妻 健介の腕を引く


健介 ああ。




つづく


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